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名古屋地方裁判所 昭和45年(む)403号 決定 1970年6月29日

右被疑者に対する兇器準備集合被疑事件について、名古屋地方検察庁検察官服部国博のなした接見禁止一般指定ならびに愛知県昭和警察署司法警察職員小島臣男がなした接見拒否処分に対し、右被疑者の弁護人弁護士佐藤典子より準抗告の申立があつたので当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

一、名古屋地方検察庁検察官服部国博が、昭和四五年六月二五日、被疑者和田義応について、愛知県昭和警察署長に対しなした接見等に関する一般指定は、これを取消す。

二、愛知県昭和警察署司法警察職員小島臣男が、昭和四五年六月二五日弁護人佐藤典子に対しなした接見拒否の処分は、これを取消す。

理由

一本件申立の趣旨および理由は、申立人佐藤典子作成にかかる昭和四五年六月二七日付準抗告申立書記載のとおりであるからここにこれを引用するが、その理由の要旨は、名古屋地方検察庁検察官服部国博が、本件被疑者について、愛知県昭和警察署長あてなした接見に関する一般指定ならびに愛知県昭和警察署司法警察職員小島臣男が、右被疑者の弁護人である申立人の接見申出に対してなした接見拒否の処分は、いずれも、刑事訴訟法第三九条第一項、第三項に違反し許されないものである、というにある。

二よつて、按ずるに、関係資料ならびに名古屋地方検察庁検察官服部国博に対する電話聴取によれば、本件被疑者は、昭和四五年六月一九日兇器準備集合罪の被疑事実ありとして、現行犯逮捕され、同月二二日右被疑事実について、名古屋地方裁判所裁判官あて勾留請求ならびに接見禁止の申立がなされ、同日、右申立がいずれも容れられ、右同日、その裁判の執行を受け、現在、愛知県昭和警察署附設の代用監獄に勾留されているところ、右被疑者については、名古屋地方検察庁検察官服部国博が、愛知県昭和警察署長あて、「接見禁止の決定がなされている被疑者について、弁護人との接見については、弁護人に検事から指定書(いわゆる具体的指定書)をもらつてくるように伝えて下さい。」と口頭で連絡(いわゆる一般指定の通告)した事実があり、そのため、右被疑者の弁護人である本件申立人が、接見を申し出たところ、昭和四五年六月二五日、愛知県昭和警察署司法警察職員小島臣男がこれを拒絶し、申立人に対し具体的指定書を持参しないかぎり接見をさせることができない旨、その理由を述べたが、右検察官および司法警察職員の措置によつて、申立人は、右被疑者に対する前示勾留ならびに接見禁止の裁判につき、準抗告の申立ならびに勾留理由開示その他の訴訟活動の準備ができないことが、各認められる。

三そこで、まず、検察官ならびに司法警察職員のなした本件各措置が、刑事訴訟法第四三〇条第一項、第二項の処分としてそれ自体準抗告審における判断の対象となるかどうかについて判断するに、本件各措置のうち、検察官のなした右措置は、その内容上、本件被疑者に対する接見交通につき、検察官が具体的な日時などを指定しない限り、これを許さない方針であることを愛知県昭和警察署長あて通告するとともに、一方、これとは別に、弁護人から接見申出があつても、右通告内容にそわない接見を許さない措置を、右昭和警察署長指揮下の司法警察職員を介して、あらかじめ、一般的に、なしたものというべきで、右後者の側面について考えるかぎり、検察官の右措置は、ただ、現実に弁護人から接見申出がなされたときに、右措置の効果が特定、具体化する特殊性を有するにとどまり、したがつて、右措置は、その効果の発生が、弁護人の接見申出という将来の条件にかかつているだけで、それ自体、直接弁護人に対する措置というに妨げず、これをもつて、単なる検察官の接見交通に関する意見の表白ないし司法警察職員に対する事務連絡、通告その他具体的指定の準備手続とのみ解するのは相当でなく、結局、本件検察官の措置は、接見交通に関しなされた弁護人に対する処分として、いわゆる具体的指定とは別個に、それ自体が、独自に、刑事訴訟法第三九条第三項の規定の規則を受けるのは、勿論、同法第四三〇条第一項の規定にもとづき、独立して、準抗告の対象となるもの、と解するのが相当である。

(なお、刑事訴訟法第四三〇条の解釈上、いわゆる処分を法律行為に限定する根拠はなく、右処分のうちには、法律行為、準法律行為、事実行為をも含み、したがつて、同条にいわゆる取消も、法律効果の観念的な否定にとどまらず、違法な事実状態の排除、撤廃を含むものと解するのが相当である。)

また、右措置のうち、司法警察職員のなした接見拒否の措置は、その内容上、接見申出をなした弁護人に対し、検察官のいう具体的指定書を呈示するという一定の手続を履践することを求め、また、その履践がないことを形式的理由として、司法警察職員において、現実の接見を許さないとするもので、接見の手続ないし接見の拒否について、刑事訴訟法第三九条第三項にもとづく司法警察職員の指定権の発動そのものとして、直接、弁護人に対しなされた処分であること明らかで、同法第四三〇条第二項の規定にもとづき、準抗告の対象となるもの、と解するのが相当である。

四つぎに、検察官の本件処分の適否について検討するに、この点については、まず、刑事訴訟法第三九条第一項が、弁護人と被疑者との自由な接見交通権の保障を規定し、右原則に対し、同条第三項本文が公訴提起前の接見交通に関するかぎり捜査のため、日時、場所、時間を指定しうることを規定して、これを例外的に、修正することを許し、その場合においても、被疑者の防禦権を不当に制限してはならない旨、さらに、同項但書で規定していることが、明らかである。

しかして、刑事訴訟法第三九条第一項の自由な接見交通権は、基本的には、憲法第三四条の規定の趣旨に由来する権利で、被疑者が公正な裁判を受けるうえで不可欠なものであること、ならびに、右権利が、その重要性に鑑み、捜査官憲の主観的恣意や都合により、否定され、あるいは制限され、被疑者の防禦権を侵害するが如きは、許されないものであることなどの事情を勘案すれば、同法第三九条第三項にいわゆる「捜査のため必要なとき」とは、結局、被疑者について、現実に接見申出の際、取調べ、検証への同行がなされている場合など、被疑者にかかる捜査が、現に、なされ、かつ、これを中断、停止し、接見交通後に右捜査を再開、継続するにおいては、とうてい捜査の目的が期し得られないなど、前示自由な接見交通権の行使について、若干の譲歩を期待することも、真に止むを得ず、これによつて、実質上、被疑者の防禦権について、支障が生ずるおそれがない場合を指称するもの、と解するのが相当である。

しかるに、本件検察官の措置は、集団犯罪に加功した他の者の取調べ未了や、通謀の防止、さらには、接見の機会になされる弁護人の指示、助言によつて、被疑者が取調べに対し、防禦的態度をとることを回避するなどの目的にいでたものであることがうかがわれ、前示刑事訴訟法第三九条第三項本文の趣旨について、説示したところに、とうてい、そわず、いささか、捜査官本位の便宜を重視した必要性の判断を前提としてなされ、同項本文の規定にてらし許されないものと認められる。

また、右措置は、これによつて、接見交通自由の原則を、あえて否定し、弁護人の自由な接見交通を実質上、全般的に禁止したうえ、右禁止を、検察官が、具体的指定書の交付によつて個別的に、解除するものと評するに、あえて妨げない運営によるもので、同法第三九条第一項の原則をも無視するほか、これを文理的にみても、前示同条第三項本文の規定が、捜査のため必要があるときに許容する指定権行使も、日時、場所、時間についてのみ、許されるとしているのに、弁護人に対し、新たな手続き(具体的指定書の交付を受け、これを呈示するという)の履践義務を課すもので、指定権の行使方法について、ある程度、検察官の裁量権を許容するとしても、明らかに、その限界を逸脱するものである。

しかのみならず、右措置は、これによつて、現に、被疑者の防禦上の権利を害していることからしても、同項但書の規定にも違反し、とうてい許さるべくもないもの、というべきである。

五また、司法警察職員の措置の適否について、検討するに、右措置は、前示検察官による違法な一般指定の処分を前提とし、これにもとづき、具体的指定書の呈示、提出がないことを形式的理由に、有効な指定が存在しないにもかかわらず、あえて、司法警察職員において、弁護人の接見を制限、拒否するもので、接見交通の自由原則を規定した刑事訴訟法第三九条第一項に違反し、また、それ自体、同条第三項本文の許容しない義務を弁護人に課して、その接見交通権の行使を妨げ、同項本文の規定にも違反するほかこれにより、現実に、被疑者の防禦権侵害の結果を招来せしめていることからして、同項但書の規定にも、違反するものと認められる。

六してみれば、前示検察官および司法警察職員の本件接見交通に関する措置が、刑事訴訟法第四三〇条第一項、第二項の各引用する同法第三九条第三項にもとづくものとしてなされている処分に該当し、かつ、これらの処分が、前示のとおり、いずれも違法である以上、前示違法な各処分を撤廃し、検察官、司法警察職員について、弁護人に対し被疑者との自由な接見を許容せしむべき義務あることの確認、ないし、その義務の履践を求める趣旨において、申立人の準抗告は、いずれも、理由があるもの、というべきである。

七よつて、前示六の趣旨において、本件各処分の取消を命ずることとし、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第二項により、主文のとおり決定する。(野村忠治 川瀬勝一 鬼頭史郎)

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